11.マンションの床遮音性能不足

マンションの界壁の遮音性能は建築基準法第30条及び告示第1827号に定められていますが、床の遮音性能は法令で定められていません。

これまで5件の床遮音性能不足問題に関与しました。その一つの大手マンション業者の事例を紹介します。

床の衝撃音は「上階床に何らかの衝撃が加えられることにより床が振動し、その振動によって、下階室へ放射する音」です。また、床の衝撃音は軽量床衝撃音と重量床衝撃音があります。軽量床衝撃音はナイフ、箸、硬貨、椅子などの比較的軽量物体の落下や移動に伴って、床に加わる衝撃により発生する音です。一方、重量床衝撃音は人が歩き、走り、跳んだりするなど重量物により、床に加わる衝撃が発生する音です。

軽量床衝撃音はコツコツという比較的高音域の音であり、その遮音性能は床表面の仕上げ材の衝撃に対する緩衝効果に依存します。したがって、軽量床衝撃音の遮音性能不足は遮音性能の高い仕上げ材に取替えることで解決します。

一方、重量床衝撃音はドスンという低音域の音であり、その遮音性能は床の振動を小さく抑える床構造の剛性や質量に依存します。したがって、重量床衝撃音の遮音性能不足は建物の構造に関する問題であり、一般には解決が困難です。

問題のマンションは、上階住戸の子供が走り、跳んだりする重量床衝撃音の遮音性能不足の事件です。

当該マンションが達成すべき床の遮音等級は、重量床衝撃音に対してL−55の適用等級2級です。

適用等級2級は、日本建築学会の「一般的な性能水準」に該当します。

しかし、調査機関による4住戸の床衝撃音レベル調査では、各住戸とも重量床衝撃源に対してL−60〜L−70でした。L−60は適用等級3級で「やむを得ない場合に許容される性能水準」で、生活実感との対応例では「よく聞える」です。L−65〜L−70は適用等級の等級外です。生活実感との対応例ではL−65は「発生音がかなり気になる」、L−70は「うるさい」です。

また、床衝撃音レベル調査を行っていない住戸は、インピーダンス法に基づく床衝撃音レベルの予測計算を行い、いずれの住戸も適用等級が3級または等級外になることを明らかにしました。

本件マンションの重量床衝撃音の遮音性能が不足する原因は以下によるものでした。

1 梁区画面積に対するコンクリートスラブ厚の不足
本件マンションの住戸は、大梁区画面積か70?を超えていました。また、小梁区画による各住戸の最大スラブ面積は26?〜34?と大きいものでした。一方、床スラブ厚は15cmでした。

日本建築学会発行の「建物の遮音設計資料」の表「スラブ厚、スラブ面積と重量衝撃源に対する遮音等級の目安」によると、スラブ面積が25?〜35?、スラブ厚が15cmの場合、遮音等級はL−60になります。また、同表によれば、L−55の遮音等級は、床スラブ面積25?でスラブ厚16cm、床スラブ面積30?でスラブ厚18cm、床スラブ面積35?でスラブ厚20cmになります。

本件マンションの重量床衝撃音の遮音性能不足の原因は、梁区画のスラブ面積に対してスラブ厚が薄いという構造設計上の瑕疵であることが明らかになりました。

2 天井材による遮音性能の低下
天井材は重量床衝撃音の遮音性能に影響を与えます。マンションの天井は一般に石こうボード下地にビニルクロス仕上げですが、スラブと天井材の間の空気層が30cm以下の場合、遮音性能が低下します。これは天井材と天井懐の空気層のバネによる共振周波数が、重量床衝撃音を決定している63HZとなり、共振して大きな床衝撃音となるためです。

本件マンションでは天井裏の空気層が6cm〜25cmであるため2dB〜7dB増幅し、適用等級が1ないし2ランク低下する原因になっていました。

3 カタログ表示と営業マンの対応
本件マンションはあるメーカーの床組材が使用されていましたが、軽量床衝撃音の遮音性能を高める商品でした。検査機関の床衝撃音レベル調査でも軽量床衝撃音の遮音性能を満足していることが検証されました。

同商品のカタログには、財団法人日本建築総合試験所の試験結果が添付され、スラブ厚15cmの床版上に施工した場合の推定値は「重量床衝撃音に対する遮音等級LH−55」と表示されています。営業マンはこのカタログ表示を根拠に、本件マンションの重量床衝撃音の遮音性能はL−55であると説明し、販売していました。

しかし、カタログには「本推定値は、標準的な施工が行われた梁区画面積10−15?のRC床版に対するものです。スパンの大きさが異なる場合や柱、梁、壁、天井などの躯体構造により少しちがいが出てくることがあります。」と記載されています。本件マンションの梁区画面積は25?〜34?と大きいため、この商品を使用してもL−55の遮音性能はありません。

他のマンションでも、裏面にクッション材を張ったフローリングの試験結果を表示したカタログを示して、重量床衝撃音の遮音性能が高いマンションだとして販売しているケースもありました。要注意です。重量床衝撃音の遮音性能は床のコンクリート構造に関する問題であることに留意して下さい。

重量床衝撃音の遮音性能が不足している場合、一般には補修方法が困難です。床スラブの梁区画面積に対してスラブ厚が薄いことが主たる原因ですから、床スラブの上に5cm程度のコンクリートを打ち増す補修が必要になります。しかし、5cmのコンクリートの打ち増しは、床荷重が120?/?増えます。荷重増は建物全体の構造の安全性が新たな問題となり、現実の補修は困難です。

裁判でも補修方法が問題になりました。そのような時期、建築技術情報誌の「カットーン」という床組材の紹介記事を目にしました。重量床衝撃音に対する遮音性能が高い画期的な商品でした。

同商品を使用する補修方法を提示すると、被告も同意し、和解が成立しました。